<すっと沁み込む、すみわたる。素の自分に還るお茶>というコンセプトで、よもぎ茶の精茶・販売を行うブランドを営む妻、夫、猫の姉妹が、自分らしく伸び伸びと暮らす為の住まいを計画した。雑木林に覆われた小高いロケーションに建つかつての別荘をゆずり受け、本邸に改修する。
住宅は凛とした静けさに包まれた雑木林にひっそりと建つ。居間からは大らかな雑木林、その先の海・山・空が絶妙にバランスされたまるで絵画のような美しい景色が広がる。既存住戸の骨格や状態は良好で住まいに必要な設えも一通り揃っており、既に十分に豊かな環境が備わっていた。ここで我々がすべきデザインは、唯一無二の大らかな環境と施主のアイデンティティとしての生の営みとの融合を図ることであり、それ以上は不要に思えた。
最小限の手数で効果の最大化を目指し既存の間取りを流用する。その上で、設計者が「設い法」と呼ぶ要素の足し引きや整頓等による居場所や開口部、仕上の再編に加え、家具や照明等の新設を行った。主空間である既存LDKは、リビング兼ダイニング、キッチン室、小上りを含むワンルームであり、その大らかな空間性を継承しつつ各スペース間の壁や扉、レベル差等のバリアを取払い、各居場所の個性をブーストさせることで魅力的な居場所が密集した新たなワンルームへと再編した。また、LDKと隣接する玄関ホールやアプローチ、デッキスペースやその先の景色までをもシークエンスの一部に編成することで、その動的なシーンの連続が日々の住体験をより複雑で豊かなものとする。
また、雑木林という独自性を空間化する試みとして、床や天井、家具や建具、キッチンや照明器具等、空間を構成するあらゆる要素に計8種折々の樹種を使い分けた。設計のセオリーでは1つの案件に使用する樹種は多くても3種程度に絞るが、ここではその倍以上の樹種を使用した。それらを違和感なく融合させることで、一見シンプルでさり気ない空間であったとしても、樹種の多さが寧ろ住まい手の無意識層に訴えかける心地よいゆらぎや変化を生み得ると考えた。
仕上には、地場名産の牡蠣の廃殻を混ぜた漆喰や真鍮、天然石、木材等ほぼ全てに経年する材料や自然素材を採用した。またキッチンや建具に加え、デイベッド、引手やタオル掛、レンジフードや薪受け金物、照明器具等できる限りオリジナル製作とし、空間密度の向上に努めた。
福岡県糸島市