既存クリニックのリニューアルプロジェクト。長年地元馴染みの患者に愛され、御高齢の方も多いという点を除けば、医療方針や要望共に王道とも言えるオーソドックスなプログラムであった。私たちは、このピースフルかつノーマルな状況を解く上で真に必要なものが、特殊なコンセプトや斬新な造形、過剰なアイデアではないとすぐに思い至った。真正面から向き合った結果生まれる空間の可能性を追求する。
まずはじめに歯科を構成する各スペースの『主体』と『目的』に着目し、改めて一つ一つの整理・明確化を行った。例えば待合は『患者』が待つ、即ち『滞在するため』の空間、診療室は『医師』が診療という『問診や施術をするため』の空間、そしてカウンセリング室は『医師と患者』が気兼ねなく『説明や相談を行うため』の空間、というように一見至極当たり前のことをいちいち再整理することで『真に必要な設らえ』即ちデザインがおぼろげに見えてくる。また、問題を削ぎ落とし抽象化することで『歯科とはこうだ』という無意識の思い込みや、反対に行き過ぎたデザインが自然と排除され主体と目的に即した実直で強靭な『あたりまえに良い空間』が立ち上がってくる。
上記に加え、高価・安価、天然・人工、特注・既製、新・古、それらの一元的な優劣、即ち価値を一度解体し、等価に扱い、ミックス、コラージュ、バランスによって再編集することで、美意識を内在させながらも利用者を置き去りにしない、ほど良い塩梅のニューノーマルな空間がつくれたように思う。
福岡県福岡市西区