福岡県福岡市科学館で開催された特別展『絵本とあそぼう はじめての?』の展示空間の会場構成を担当。絵本の世界を入り口に「子の成育に寄与する空間とは何か?」という根源的な問いに向き合い、アナログな体験や感動を通して豊かな交流を生み出す空間づくりに挑戦した。
目指したのは順路や説明に縛られた従来の展示空間ではなく、まるで公園のように自由で、好奇心に導かれ自然と身体が動くような“絵本の公園”。約500㎡の大きな吹抜空間を活かすように、中心に直径10m・高さ4.5mのダンボールボックスを積層したシリンダー状のメイン広場を計画。このシリンダーは会場全体に広がる6つの絵本の世界を紡ぎ、受け止める巨大な器でもあり、来場者は大小のゲートを通して自由気ままに回遊することで冒険体験が得られる。
会場全体の主な構成素材としてダンボールを採用した。これは科学館で規定された床や壁への固定ができない条件下での、軽量・自立可能・設営のしやすさ・コスト効率の高さなどの利点に加え、同じ紙質である絵本との相性にも優れていた。空間全体は1000個以上もの特注設計のダンボールボックスに加え、オリジナルデザインの本棚やスツール、展示パネルを組み合わせ、細部にまで一貫したマテリアルによって構成した。
本展では、絵本の世界を「触れる」「感じる」体験空間として再構築。絵本を読み、空間で遊び、語り合う、そんな滞在と交流が重なる場は、まさに“絵本の公園”とも言える新しい体験空間だと言える。従来の子どもだけが楽しむ場所とは一線を画し、大人も子どもも、年齢や性別を超えて共に楽しみ、感性を刺激し合える空間を目指した。
このプロジェクトは、単なる展示にとどまらず、人と人、人と絵本、人と空間をつなぐ、新たな空間創造への試みである。
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6つの絵本と作家(順不同)
『雨、あめ』絵:ピーター・スピアー(評論社)
『からすのパンやさん』作・絵:かこさとし(偕成社)
『ごぶごぶ ごぼごぼ』作:駒形克己(福音館書店)
『さくらのふね』作・絵:きくちちき(小峰書店)
『チリとチリリ』作:どいかや(アリス館)
『はじめてのおつかい』作:筒井頼子、絵:林明子(福音館書店)
福岡市科学館
福岡市科学館