福岡発のハンドメイド鞄ブランド【KaILI】の直営店および工房の計画。立地や周辺環境、既存の躯体状況や雰囲気との調和・改善に加え、ブランドのコンセプトである「矛盾あるデザイン」の空間化を目指した。目的の異なる店舗と工房の融合のさせ方、素材の選定や取合いなど建築の既成の課題にあらためて向き合いつつ、できるだけ素っ気なく即物的に納めることで、KaILIの鞄のようにベーシックでありながらも意図的な違和感や発見を内包する空間を構築できないかと考えた。
設計では、「既存の肯定」を大前提とした上で施工範囲や内容の最小化を目指し、連続、分断、緩衝、対比等によりタッチアップ的な改修を心がけた。今回は特に「床」「見切」「可動什器」の3つを設計の優先要素としながら、できるだけ既存を残しつつも店舗たる最小限の主張を備えた、コンバージョンとして成立するギリギリの境界を模索した。
中でも可動什器は、静的な空間にもたらす重要な動的要素である。什器は流通角材で組まれた自立するL型の骨格を持ち、分割して搬入出できる。面材は床と相似するφ4×50の既製ステンレスワイヤーメッシュを採用。限られたスペースでの開放性や奥行き効果に加え、メッシュに専用の角材を差込み、滑落とメッシュの浮き防止を兼ねたアクリル製の”くさび”により自由度の高いディスプレイが可能となる。また、ギャラリーの床は外部の既存ヴィンテージタイルと連続するように延伸させ、方眼紙のような床が可動什器を配置する際のガイドになる。
一般的に目立つことが重視されがちな外観や看板は、景観を優先し今回はあえて既存ファサードそのままとし、看板に代わり「学校時計」を1つだけ設置した。結果的に風景に馴染むノイズの少ない景観となり、時計のある風景が店舗としての差別化を生み、街や人々の記憶に残れば結果的に看板の役目も果たす。周囲に店舗や看板が乱立する都市部ならではのカウンターアイデアである。
福岡県福岡市