内と外にまたがる印象的な曲面壁のある動物病院の計画です。今回のようなクリニックをはじめとする商業建築では、建物の機能と商業的なサイン、そして美観をいかにバランスさせ得るかということがしばしばテーマになります。建物のかたちと看板がちぐはぐだったり、広告への想いが強すぎていやらしいサインになってしまっていたり、反対に、美観を優先しすぎてサインが小さすぎたり不明瞭だったり、いずれもよく見かける光景ではないでしょうか。このオーソドックスな問いに対して、今回は「1枚の壁」と「デザイナーとの協同」によってその問いに応えようと取り組みました。
この計画では、建築のオーソドックスな「壁」というパーツに、本来の構造や目隠し、間仕切り、化粧としてのインテリアやエクステリアといった役割に加え、広告看板や、壁を内と外とに連続させることによる視線誘導といった、人々を惹き付けたり自然と脚を向けたくなるようなサイン機能をデザイン的に融合させることで、上記の問題に応えようと試みています。
今回の「壁」の具体的な役割は、例えば、待合と診療スペースを分けるゾーニングラインであったり、壁が2階のボリュームを隠すことであたかも平屋であるように見せて威圧感を抑えていたり、プライバシーの必要な院内ドッグランやプライベートテラスを壁で隠していたり、角のないカーブを描く壁が動物病院のやわらかな印象を表現していたりなどですが、これらは「壁」の役割のほんの一例です。
次に印象的なオレンジのカラーリングについてですが、これは、病院=白やパステルカラーという定石を疑い、来院するだけで元気が出るようなビタミンカラーとして採用しています。受付は、デザイナーとも入念に相談した上でオレンジの補色となるネイビーを採用し、テキストに頼ったサインを設けずとも自然と視線が向くように考えています。
クリエイティブチームに、ウフラボの平野由記氏(グラフィック)、y2の横山洋平氏(ウェブ)を迎え、建物の設計と並行しつつ、時にはジャンルを横断した意見交換やイメージ共有を重ね、建物単体ではなく1つのプロジェクトとしてつくりあげることができました。先生の温厚なお人柄やアットホームで丁寧な診療方針が建物からにじみ出るような、そんな建物を目指し、設計に取り組んだプロジェクトです。
福岡県福岡市西区