どうしても見ておきたかったゲーリー展。
理由は2つ。1つはあのぐにゃぐにゃ建築を生むゲーリーという人物に興味があったこと、そしてそれをどのように実現させているかということ。2つ目は、空間構成をDGT ARCHITECTSの田根さんがされているということ。田根さんは、若干26歳にしてエストニア国立博物館のコンペで勝たれたことでも有名ですが、日本では、昨年長崎県美で行われたミナペルホネン「ミナカケル」の展示空間を手がけられ、実際にとても良い空間構成でした。
さて、ゲーリーと言えば、ビルバオのグッゲンハイムや日本では神戸のフィッシュ・ダンスで有名な建築家ですね。余談ですが、氏はよく魚をモチーフにしたデザインをしますが、これはポストモダニズムに対するアンチテーゼ、というか皮肉のようです。皮肉で魚の建物を建てられるのは個人的にはごめんですが笑、ユーモア溢れる1つのエピソードだと思います。
実は今、建築業界は「建築」する手法が大きく変わろうとしている時期にあります。従来の平面図や立面図といった2次元情報をベースに組み立てられていた設計という行為が、コンピューティングを前提としたBIM(Building Information Modeling)という3Dやシミュレーションによる4Dをベースにした設計手法に置き換わりつつあります。特に、プロジェクトに関わる人数の多い大きなプロジェクトの際のイメージ共有や、ミスの減少、工期の短縮、より高精度設計の実現などが目論まれているのですが、ゲーリーはこの現代のBIMの、いえ、それを遥かに優れた仕組みをずっと昔から自社で開発し、実践してきた建築家でもあります。
あえて少し専門的なお話に触れましたが、それはこの仕組みこそが、氏のべらぼうに手間と費用がかかりそうな建築を、定められた工期と予算の中で実現させている要因であるからです。1つのプロジェクトのために、効率的な設計手法自体を設計する、その姿勢に正直圧倒されます。1つのプロジェクトのために300を超える新たな特許を取得する程ですから、その熱意たるや。
しかしながら、実は僕がリスペクトする最大のポイントはそこではなく(作風でもなく)、そのような最先端の仕組みを持っていながら、意匠の検討は模型で行っているというところです。数も半端ではなく、1つのプロジェクトに対し、100〜1000は作るというのだからお手上げです。もちろんプロジェクトの規模も予算もスタッフの人数も違いますし、手でつくらない模型も含まれますが、それでもあくまで手を動かすことを大事にしていることが重要ではないかと思うのです。建築は人が使い、人が評価するものですので、やはり人の手で検討されることは重要だと個人的には思っています。
正直、ゲーリーのデザインは好みではありませんが笑、間違いなく現代の生きる巨匠だと言えます。
他の追随を許さない独自の建築手法と熱意は、無二なものだと思います。
わざわざ飛行機に乗っていく価値のある展示で、とても良い刺激を頂きました。